最新の技術に関するキーワードは、関連する製品の優位性をアピールしたいが為に従来とは異なる方向づけがされることがあります。「イーサネットスイッチ」もその一つでしょう。

大昔のネットワークの教科書には「スイッチ」は登場しないと思います。L1処理のレピーター、L2処理をするブリッジとL3処理をするルータが基本コンポーネントです。そしてブリッジは2ポートの物が基本です。

マルチポートブリッジ

1980年後半イーサネットを利用するプロトコルとしてIPX/Netwareが多く使われていました。このプロトコルは当時のメモリー容量が少ないPCに対応するためにバッファーが少ない実装だったのでネットワークの遅延がファイル転送等のパフォーマンスに大きく影響したのです。それを避けるために、多段構成を必要としないマルチポートブリッジが登場し、同時にヘッダー情報を参照した時点で転送処理を開始する「カットスルー」機能を備えた製品が登場しました。このころに従来のブリッジとは異なる製品であることをアピールするために「イーサネットスイッチ」というキーワードが使われるようになったのです。Kalpanaが言い出したと言われています。

少し後にATM交換機も「ATMスイッチ」と使われたキーワードです、語感として高速性を感じさせるところと汎用CPUによる処理を行わず専用ハードウェアによる処理であることを示すために使われたのでしょう。

L3スイッチ vs CPU + accelerator

ネットワークのトラフィックが徐々にIPに収斂する事により、IPヘッダー情報を解釈するロジックが組み込まれたチップが登場します。これによってL3処理を行う機器が「L3スイッチ」と呼ばれるようになりました。従来は汎用CPUによる処理を行っていたルータも処理能力向上のため、専用のハードウェアによるアクセレーション機能を備える方向に進化し単純なパケットの転送処理だけでは機能差は無くなりました。しかし、アクセレータとして転送ハードウェアを備えるルータはアクセレータが対応できない処理をCPUで処理できるのに対しL3スイッチはハードウェア処理が行える機能が限定的であるためまだ明確な差があったと言えるでしょう。

その後、IPv6対応が求められた時も例外処理として処理できるルータに対しL3スイッチは対応が出来ないという問題もありました。

VPNルーター

ルータはL3処理ですからイーサネット以外の伝送メディアも扱えます。専用線やISDN、ATM、FDDI、TokenRing等様々な通信メディアが使われていたこともあり、あまり混乱はなかったのが。専用線メディアがイーサネットにより通信事業者を経由した遠距離接続ができるようになるとイーサネットさえ扱えれば十分となります。

フレッツ等のアクセス網がPPPoEによるセッション管理を必要とするため、PPPoE処理をできるのがルータとスイッチの違いと認識された時期もありましたがL3スイッチの機能拡張によりその差も無くなります。次に出てきたのがVPNを終端する機能です。もはや、パケットの分岐処理をするためではなくVPNの為だけにルータが必要となる状況になりました。

UTM(Unifined Thereat Management)

企業や、家庭での外部のネットワーク接続に必要な機器としてはFW,NAT,VPN機能が必要なのであり複数のポートの間で宛先を観て交通整理するルータは必要ではありません。よほど大規模でない限り、UTMと呼ばれるようなよりセキュリティ機能に重点を置いた機器が適しているでしょう。

現在での”ルーター”の存在意義

なんでもできる万能な機器はありません。パケットを単純に複数のポートに振り分ける機能に絞っても要求される方向性は複数あります。代表的な要素として容量、テーブルサイズ、キュー制御があります。この三要素を同時に満たすのはとても難しいのです。

一般企業ではなくインターネット事業者が必要としている機器を考えると中心に位置する機器は膨大なサイズの経路テーブルを扱う必要がありますし、顧客を収容するedgeは限られた回線容量に殺到するトラフィックを制御する必要があります。これにデータセンターのコアを加えて要求される機能の違いを表にすると。

  SP core SP edge DC core
容量 特大
テーブルサイズ
キュー制御

現在での”ルータ”の定義は大きな経路表を保持管理できる機能を持つものなるのでしょうか。

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November 22, 2022 • 6:15PM

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