100G CWDM4を前提に話を進めますが他の伝送形式でも適用できる話だと思います。

光トランシーバーにはDDM(Digital Diagnostic Monitor)と呼ばれる測定機能を備えており、共有されている電圧や温度など様々な情報を機器側から所得する事ができます。その中でも重要なのが光の受信レベルの測定結果を返す機能でしょう。

SFF-8636の規定では、16bitのカウンターで0 to 6.5535 mW (~-40 to +8.2 dBm)と桁数の多い値を返しますが仕様上の要求精度はプラスマイナス3dBとかなり緩い規定になっています。校正を行わない測定機での絶対値の精度は期待できません。

100G CWDM4の場合には、送信側にはレーザーの後段に波長合成機(MUX)があり受信側には前段に波長分波器(DEMUX)がありますので、測定値を評価するにはそれらの減衰も考える必要があります。トランシーバーのデータシートに記載されている値は外部観測値ですのでDDMの値とは異なる事になります。

  • TX DDM = 実出力 + MUX loss = DS記載値 + MUX loss 
  • RX DDM = 実受信 - DEMUX loss = DS記載値 - DEMUX loss

4ch CWDM MUX/DEMUXのlossは単品の製品の仕様を眺めるとおおよそ1dB以下です。仮に0.5dBとすると、100G CWDM4の仕様上の受信下限は-11.5dBmですのでRX DDMの-12.0dBmとなります。

理論値

100G CWDM4 MSAの主要な仕様

   
Average launch power, -6.5 to 2.2 dBm
Average receive power, -11.5 to 2.5 dBm
Power budget 8.0 dBm
TDP 3.0 dBm

正確な測定が受信側のトランシーバーの入り口でできるのであれば、-11.5dBmに1.5dbのマージンを乗せて-10.0dBmとすることが出来ます。

実測値

トランシーバにloopbackアダプタを差して、DDMのTXとRXの差をみてみましょう。

sample A CH1 CH2 CH3 CH4
TX DDM -0.01 0.02 0.14 0.14
RX DDM with loopback 0.23 -1.33 -0.49 -0.54
gap -0.23 1.35 0.63 0.68
pair RX DDM with 5.0M SMF -0.85 -2.04 -1.89 -1.86

 

sample B CH1 CH2 CH3 CH4
TX DDM 0.99 1.14 1.56 1.31
RX DDM with loopback 0.23 -1.33 -0.49 -0.54
gap 0.76 2.47 2.05 1.85
pair RX DDM with 5.0M SMF        

TX DDM > RX DDM loopbackの関係が成立していないケースもあり。その差は一定では無く、MUX/DEMUXのlossを1dBと仮定すると平均して0.74のブレがあります。波長によるlossの差も考慮する必要があるかも知れません。もう少しサンプルが必要ですね。

とりあえずはプラスマイナス2dBと想定します。

BER測定値

仕様では-11.5dBmでBER 5E-5以上です。固定アッテネータ経由のloopbackで弱受信強度でのBERを測定しした。(正確にはOMA -10.0 dBmでBER 5E-5。DDMの値はaverage。)

 

DDM RX AVP

5min BER

ATT

CH1

CH2

CH3

CH4

CH1

CH2

CH3

CH4

06

-6.04

-6.23

-5.52

-6.24

0.000E+00

0.000E+00

0.000E+00

0.000E+00

07

-6.95

-7.66

-6.69

-7.07

0.000E+00

0.000E+00

0.000E+00

0.000E+00

09

-9.54

-10.20

-9.16

-9.52

0.000E+00

0.000E+00

0.000E+00

0.000E+00

10

-9.59

-10.28

-9.83

-10.06

0.000E+00

0.000E+00

0.000E+00

0.000E+00

12

-12.82

-13.57

-12.58

-12.81

1.067E-08

1.632E-09

1.961E-10

1.407E-08

15

-15.06

-15.59

-14.79

-15.45

1.802E-04

4.490E-05

4.113E-05

4.651E-04

9dBは3+6、10dBは3+7、15dBは3+12の複数のATTをの直列接続。

25Gbps 5minでは7.5E-12までしか確認できない。10GbpsでCL=99%で10E-12を示すには30minの測定が必要。25Gbpsでは12min。

25G baud NRZでは分散の影響も考慮する必要があるが2km以下ならとりあえず考えない。-11.9 to 6.7 ps/nmで0.093 ps/nm/kmだと72Km相当。

 

結局開通時の下限の値は?

100G CWDM4の要求BERはRS-FECを前提にしていますので5E-5です。BERの実測データから-13.0dBmでこの下限を上回る5E-6であると言えます。仕様上の下限-11.5dBmから1.5dBのマージンがあると言う事になります。-10.0dBmではFEC無しでの運用可能と言えます。

DDMの測定誤差を2dBと見込んで仕様上の下限以上であると判断基準は-9.5dBm。更に倍のパワーに相当する3dBのマージンを上乗せすると-6.5dBmが目安の値となります。この値は仕様上の送信下限と同じで1.5+2.0+3.0と6.5dBもマージンを積み上げているのでちょっと厳しすぎるかと思います。

せいぜい-8.0dBmと言うところでは無いでしょうか。

 

異常値の評価

DDMで得られる受信レベルはLANE毎です。全てのLANEで値が低い場合は配線にまつわる何かしらの問題がある可能性が高いです。ケーブルの不良、コネクタ端面の汚れ。まずはコネクタ端面のクリーニングを行いましょう。

LANE毎でのばらつきについては、仕様でも-6.5から2.5dBmとかなり広い許容範囲となっています。100G CWDM4は2km以下の短距離を安価に接続することを目的にIEEEではなくMSAで定められた仕様ですので、コストを考慮した結果の広い許容範囲となっています。従って、基本的にLANE毎のばらつきは範囲内であれば警戒すべき要素ではありません。

時間変動が観測された場合は要注意です。DDMの値も相対値の精度は期待できます。ファイバーの曲げによる変化があっても0.3dB程度ですので、1dB以上の変動は異常と判断して良いと考えます。

OMAとaverage

パワーメーターで測定できるのは平均電力(average)です。レーザーの出力はON/OFFの変調がされており、その頻度はほぼ同じであることから、ピークの約半分の値となります。

OMAはONの時のピークとOFFの時のピークの差で、これによって0か1かを判断しているためにBERの仕様としてはこちらの値が示されています。これは、レーザーの出力がOFF時に必ずしもゼロに近い出力にならない場合があるからです。しかし、OMAを測定するには光オシロスコープによる観測が必要でOMAから-1.5dBの値を簡易にパワーメーターで測定できるaverageに換算して運用するのが一般的です。

SFF-8636抜粋

6.2.5 Channel Monitors (Page 00h, Bytes 34-81)

Measured Rx received optical power is represented in mW as either an average received power or OMA depending upon how Page 00h Byte 220 bit 3 is set. The parameter is encoded as a 16-bit unsigned integer with the power defined as the full 16-bit value (0 to 65535) with LSB equal to 0.1 μW, yielding a total measurement range of 0 to 6.5535 mW (~-40 to +8.2 dBm). Absolute accuracy is dependent upon the exact optical wavelength. For the vendor specified wavelength, accuracy shall be better than +/-3 dB over specified temperature and voltage. This accuracy shall be maintained for input power levels up to the lesser of maximum transmitted or maximum received optical power per the appropriate standard. It shall be maintained down to the minimum transmitted power minus cable plant loss (insertion loss or passive loss) per the appropriate standard. Absolute accuracy beyond this minimum required received input optical power range is vendor specific.

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